出典: 古事記全釈, 植松安氏&大塚竜夫氏共著, pp.94-95

『故(かれ)、汝(いまし)は、其の族(ともがら)のありの悉率(ことごとくゐ)て來(き)て、此(こ)の島より氣多(けた)の前(さき)まで、皆列(みなな)み伏し渡れ、吾(あれ)其の上を踏(ふ)みて走りつゝ讀(よみ)み渡らむ。』

それで、貴方は自分の一族をある限りつれて來て、この隱岐の島から氣多の崎まで、皆列び伏してお渡ししなさい。私がその上を蹈(ふ)んで、走りながら數(かぞ)へて渡りませう。

『こゝに、吾(あ)が族(ともがら)と、何(いづ)れ多(おほ)きといふ事(こと)を知(し)らむ。』

それによって私の一族と、どちらが多いかを比べませう。

『かく言(い)ひしかば、欺(あざむ)かえて列(な)み伏(ふ)せりし時に、吾其の上を踏みて讀み渡り來て、地(つち)に下(お)りむとする時に、吾(あれ)、汝(いまし)は我(われ)に欺(あざむ)かえつと言(い)ひ竟(をは)れば、卽(すなは)ち最端(いやはし)に伏せる和邇(わに)、我(あ)を捕(とら)へて、悉(ことごと)に我(あ)が衣服(きもの)を剝(は)ぎき。』

かう言ひましたので、鰐どもがだまされて列び伏しました時に、私がその上を蹈(ふ)んで、數を數へつゝ渡つて來て、因幡の地に下りようとする時に、私が鰐に、お前達は私にだまされたのだと、言ひますと、最後に列んでゐました鰐が、私を捕へて、すつかりと私の皮を剝ぎました。

『此(これ)れに因(よ)りて、泣き患(うれ)ひしかば、先立ちて行(い)でませる八十神(やそがみ)の御命(みこと)以(も)ちて、潮(うしほ)を浴(あ)みて風に當(あた)りて伏せれと、誨(をし)へ給(たま)ひき。』

それで、泣いてゐました所が、前に行かれました多くの神々の御言葉として、潮水につかつて、風に吹かれて寢てゐよと御敎へになりました。

『かれ、敎(をしへ)の如(ごと)せしかば、我(あ)が身悉(ことごと)くに傷(そこな)はえつ。」と告(まを)す。』

それでその御敎への通りにしましたところが、からだがすつかりと傷つきました。」と申し上げた。

出典: 古事記全釈, 植松安氏&大塚竜夫氏共著, pp.94-95

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